江戸時代の料理書「精進料理献立集」 より、「大原木ゆば」の椀物を、懐石・宿 「近又」の7代目 鵜飼さんが、春から初夏への一品として再現なさいました。
本物を知る「京おんな」のためのフリーマガジン「ハンケイ500m」 vol.13完成しました。
京都を流れる鴨川から、京大、吉田山麓まで、さまざまな「人」の生活相が織りなす空間、「近衛通」の特集号。
今回、創刊3周年目のスタートとして、表紙・誌面ともにデザインを一新されております。
編集スタッフの工夫と、デザイナーの力量を感じる誌面世界となりました。
フリーマガジンとして、京都の地下鉄各駅、ターミナル、市内各所に配布しています。
京都に暮らす「京おんな」の皆様も、そして、ふらりと京都にお越しの方々も、目に付きましたら、手に取ってご覧ください。
ここに紹介されている「アンスティチュ・フランセ関西」は、旧称「関西日仏学館」。
懐かしくて、訪れた往時のことなど、回想してしまいます。
こちらで、妹が友人数人でフランス語の劇をしたことも、もう20年程も前のこととなりました。
1階には、比較的気軽に立ち寄れる「ル・フジタ」というレストランがありました。
落ち着いた店内には、私の好きな Léonard Foujita(藤田嗣治)の絵画作品が、草原からの風を感じるように、壁面を占めておりました。
夏季には水辺のテラスがガーデンレストランに様変わりして。
温かな電球が、木々やガゼボの支柱にゆらめく空間には、ワインとお料理と猫たち。
そう、なぜか猫がたくさん居たように記憶します。
藤田の画に描かれる猫たちのような。
ママンと呼ばれる方が、にこやかに、それでいて手際よくサーブに気配りしていて。
ゆっくりと更けゆく程に、会話が弾んでいく、そんな暮れゆく夏の想い出。
今回は「精進料理献立集」より、14番「初夏献立」「平皿」の「大原木ゆば」を使った一品。
まず、「大原木ゆば」と書いて「おほはらぎゆば」と仮名が振ってあることに、目がとまりました。
今では、「おはらぎゆば」と呼びならわす湯葉、昔はそのように発音していたのか、あるいは著者がそう発音しただけなのか、とさまざまに想像してみたり。
江戸時代より続く、懐石・宿 「近又」 様の7代目御主人 鵜飼さんが、この江戸時代の一品を、椀の中のひとつの世界として、形を与えてくださいました。
「古い料理を新しい味覚に置き換える」ことを可能にするのも、伝承された技のちから。
実は今回、特別に撮影時に同行しまして、再現して頂いたお料理を、私も食させて頂きました。
国の登録有形文化財でもある伝統建築の広間で、江戸時代の料理を頂くということは、まさしく今日かぎりの一期の好機となりました。
御主人の鵜飼さんは、厳しいはずの「技」の本質を、わかりやすい言葉で教えてくださいます。
ひと椀の中に、古へからの五色が揃ってこそ、まず目で賞美出来るということ。
蕗の「青」、筍と湯葉の「黄」、しんじょうの「紅」と「白」、そして椀の「黒」。
また、それぞれの色の盛付の際の、配色の約束事。
そして、何よりも、「近又」様のお出汁には、いつも強い感銘を頂きます。
美味しいという言葉では納まらない、「すっ」と体に入って、「すっ」と吸収される、その奇跡。
純粋に生命を支えるスープに近いこと。
食材を生かすお出汁の真髄が、この要点にあるのではないかと感じます。
このお出汁を通奏低音にして、それぞれの食材が一つの世界を奏でます。
ひとたび椀を開けると、春から初夏にかけての野山を摘み草に出かけるような、こころ浮き立つ、幼い頃の記憶を呼び覚まして。
今回、この椀物とは別に、「魚介とそら豆の極冷生ゆば和え」を作ってくださいました。
こちらは、さしみゆば、豆乳、白玉子、お出汁、お塩で作ったアイスクリームを、初鰹、タイラギ、そら豆に合せて頂きました。
初めての食感と味覚は、このアイスクリームを作られた挑戦の賜物。
伝統技法を踏まえてこそ、「新しい技法なのに、懐かしい味覚」。
ヌーベルキュイジーヌとも言うべき一品を、惺入の楽の器に盛られて供されます。
「ハンケイ500m」vol.13 では、近又様の考案なさったレシピが掲載されております。
是非、お手に取ってご覧ください。